アナタとイキル

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 申し訳なさそうな表情で、美緒姫は隼人に話し始めたと言う。  『紫式部』こと式部宮家の紫苑姫と、『清少納言』こと清原少納言家の美緒姫。昨今、貴族のお姫様達の間で女流文学が流行っているが、この2人は人気を二分する存在だ。  女流文学を嗜むお姫様達の間では派閥が生まれ、紫式部派と清少納言派がいがみ合っている状態にさえなっていた。  だが当の2人はどうかと言うと、実はまわりが騒ぐほど不仲でもないのだ。むしろ仲はいいほう。  どちらが先に言い出したのか、いつしかその「不仲説」を利用してお互いの相乗効果を生もうと考えたのだ。やれやれ…… そんな理由で千年後の僕達は、この2人は仲が悪いと教わってしまっていたのだ。 《次はどんなお話を考えているの?》 《今、こんな話を書いているのだけど。この後の展開ってどうしたらいい?》  そんな内容の手紙が堂々とやりとりされていたら、そんな不仲説も興醒めと言うもの。  そこで2人は内密で手紙の行き来を行えるようなメッセンジャーを仕立てたのだ。誰にも気付かれないように、2人だけの秘密で。なのでその男が動けるのは誰もが寝静まった夜中となる。  僕が初めて美緒姫のもとを訪れた時。美緒姫は「自分の妹が紫式部だ」と告げた隼人の言葉に驚いたような態度をとっていたが、それも美緒姫の演技であったようだ。その時点でもう、文のやり取りもされていたのだから。  運悪く、彼は式部宮邸の庭で侍女に目撃されてしまう。それがあの盗賊騒ぎであり、その全貌なのだ。  騒ぎが大きくなるにつれて、2人はずっと黙っていることを決めたと言う。  しかし。僕が── ちょっと的は外したものの、盗賊と勘違いしたメッセンジャーを呼び出す行動に出たので、全てを僕に話すつもりで左大臣邸に向かわせたらしい。
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