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再び広間へと戻るとソファーでミカエルと有佐が楽しそうに話をしていた。僕はそこに割って入る。
「あのぉ…… お楽しみのところ、申し訳ないのですが」
「何よ!」
有佐が僕に向ける視線は、まだどこか冷たい。
「帰るぞ、有佐」
「帰るって、どこに?」
「僕が生まれ育って、有佐が今、生活をしている世界にだよ」
「宗ちゃんも?」
僕は頷く。
「そうか、行くんだな。気をつけろよ」
ミカエルが立ち上がり右手を差し出すので、僕もその手に自分の右手を重ねる。
「ああ。ちょっくら行って来るわ。さ、行くぞ」
アンジェラは僕に告げた。あの世界に有佐のような人物がいる以上、再びここへ迷い込んで来てしまうかも知れない。それを阻止するためには僕の正体を知っている人物── ここにいる有佐と幼馴染の茉莉花。それに…… 僕が愛してやまない美津子ちゃんの3人に僕が直接会うしかないのだそうだ。
なので、僕は再びあの世界に戻ることになった。28日── 4週間と言う期限付きだが。その期間内に3人の女性達にコンタクトを取り、アンジェラから教わったマジナイを施せば彼女達の記憶から僕の正体についてのものが消去されるという。この地の女王であるアンジェラからのお願いだ。断るわけにもいかない。
この地に住み着くようになってから知ったこと。この地の女王であるアンジェラは、その風貌から女神とばかり思っていたのだが、どうやら違ったみたいだ。その地位は僕が知っている単語で例えるならば、どちらかと言うと魔女に近いのだろう。
「宗ちゃん?」
「あ?」
ソファーから立ち上がった有佐が、やっとその懐かしい実に有佐っぽい表情を僕に向けてくれる。なんか、ホッと一安心。
「もうこれ以上、ミッコを泣かせないでよね」
何も知らない有佐。どうせこの地の記憶も消されてしまうのだから。僕があの世界へと戻る理由も知らなくてもいいだろう。
「ああ、そうだな」
僕達は時空の狭間へと足を踏み出す。
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