アナタとイキル

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 紫苑姫が身構えるのも無理はない。それこそ物語の中の話なのかも知れないけど、後宮に出仕→帝に見染められる→やがて入内→世継ぎを巡った抗争に巻き込まれる…… ってのがセオリーだ。 「梨壺女御殿が優秀な事務官をご所望でね。道長公からも適任者がいないか、お達しが出ていたところなのです。  そこで思う存分、物語を執筆するのはいかがでしょうか。雰囲気を肌で感じでいただき、後宮を舞台にした長編などお書きになってはいかがですか?」  そう言って、ミカエルは道長公からの書状を紫苑姫に差し出す。しばらくその書状に目を通していた紫苑姫が、まるで意を決したように背筋を伸ばして、そしてひとつ深呼吸をする。 「わかりましたわ。権中将さま。私、後宮に行きます。そこで後宮を舞台にした、千年の後まで語り継がれるような、超大作を完成させることをお約束します。  騒ぎが大きくなってしまった以上、式部宮や兄上に迷惑を掛けてしまうかも知れないと、恐れていたのですけど。この処遇、権中将さまに感謝いたします」  僕とミカエル、それに隼人の奴もホッと胸を撫で下ろす。千年後の皆さん。僕の推理は的外れだったけど、『源氏物語』のきっかけを作ったのは僕とミカエルなんだぞ!どうだ、凄いだろ! 「ありがとうございます、紫苑殿。美緒殿とも今までどおり内密に文のやりとりが出来るよう、梨壺女御付きの雑色(ぞうしき:下級の使用人)を一人、専任として用意させましょう」 「何から何まで、ありがとうございます、権中将さま。兄上、美緒さまにも、これからもどうぞよろしくとお伝えください」 「ああ、伝えるよ。必ず」  隼人も、式部宮家にも家の誰にもお咎めがなく、ことが世に露見することなく騒ぎを収束させられることに、どうやら安堵しているようだ。
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