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「どうした?宗太郎。せっかく事件が解決したってのに、元気がないな」
式部宮邸から僕の家まで、またミカエルと2人で牛車に揺られている。ミカエルの車がうちに置いてあるからだ。
「んん…… そーゆーわけでもないんだけどね。今夜、アンジェラに戻るのかと思うと、ちょっと寂しくて」
「そっか。宗太郎もすっかり、近衛少将が板に付いて来てたもんな」
「そう?こっちの生活のほうが、僕には向いているのかな」
「有佐ちゃん…… だっけ?さっき、見事に男の腕を射抜いた女の子。彼女が言っていた、宗太郎がいなくなって悲しんでいるという女の子って、通っている大納言家の姫なのだろう?」
「んん。彼女に会えるのも、今夜が最後なのかと思うとね。千年後の世界ではあり得ないくらい、彼女と仲好くなれたからな」
「またいつか、どこかの世界で彼女にも会えるさ」
「そんなもんかな」
そうなのだ。この平安時代を離れても、アンジェラの命で派遣されたどこかの世界で、また違う世界の美津子ちゃんに会えるかも知れない。
アンジェラの住人である限り、こんな出会いと別れは永遠に続くのだろう。
でもしばらくアンジェラにいる間は美津子ちゃんに会えないわけだし、派遣された世界に必ず美津子ちゃんがいる保証もないわけだから、今夜という時間をちゃんと胸に刻み付けよう。
「じゃ。お勤め御苦労だったな、宗太郎」
源左大臣邸に着いた僕達。ミカエルは帰るために自分の牛車に乗り込もうとしている。
「お勤めって、今回はトラブルじゃないか」
「まぁ、でも。ビッグネームの女流作家を2人も救ったわけだし」
「推理は的外れけどね」
「そうか?結果的に間違っていたとしても、あのきっかけがなかったら解決しなかったと思うぞ。後処理のシナリオも、ほとんど用意しておいたとおりに進んだし」
「そう言ってもらえると、助かる」
「なぁに。んじゃ、またアンジェラで」
平安貴族のミカエルともこれでおさらばか。ミカエルが乗り込む牛車が、まるでタイムマシンのように見えた。
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