午前2時のエンジェル

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午前2時のエンジェル

 家に入った僕を、有佐が出迎えてくれる。 「お帰りなさいませ、宗太さま。権中将さまはもう、お帰りになられたのですか?」  その見慣れた顔に一瞬、うっ…… とたじろいでしまったが。良かった。目の前の有佐は、この時代の有佐らしい。 「ああ。今そこで、車を乗り換えてね。疲れた…… しばらく部屋でゆっくりしたい」 「かしこまりました。では今日は、藤原大納言家に参られるのは、おやめになりますか?」 「どうしてそんな意地悪を言うのかなぁ」  そう言うと有佐は袖で口を押さえてクスクスと笑い出した。 「冗談ですわ。最愛の姫とご一緒のほうが、若君も癒されるというもの。先触れのお文をお送りしておきますので、今日は早めに大納言家に向かわれてはいかがですか?」  この気の利きよう、まさに侍女の鑑だな。明日からも僕ではない僕のために、よろしく頼むな、有佐。 「ああ、ありがとう。そうさせてもらうよ」  有佐の粋な計らいで日が暮れる前に藤原大納言家にお邪魔できることになった。大納言家で夕餉の手筈も取ってくれるらしい。美津子姫と部屋で2人きりのディナー…… まさに最後の晩餐だな。  部屋に入るなり、美津子姫が目をキラキラさせて迫って来た。 「お帰りなさい、宗太さま。何か、また式部宮家で騒ぎがあったと耳にしたのだけど。宗太さま、何かご存知?」  はぁ…… と、思わず溜め息を吐いてしまった。美津子姫とゆっくりまったりしたかったのだけど、話に付き合わなければいけないのね。  まぁ相手が美津子姫だったら、それも悪くないけど。に、しても。どこからそんな噂を嗅ぎ付けるのだろうか。 「姫?口はかたいほう?」 「ええ。とっても」 「本当?今から僕が話すことを、自分の胸だけに留めておける?」 「うん。宗太さまに誓って」 「怪しいなぁ…… ま、いっか。姫は式部宮家の紫苑姫と清原少納言家の美緒姫。二人とも交流があるよねぇ。この二人の関係って、どう思ってる?」  僕から思ってもいなかった話題の質問をされたからか、美津子姫は不思議な表情で首を(かし)げている。
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