25人が本棚に入れています
本棚に追加
/65ページ
「どうって、お互いを意識し合っているというか。仲はよろしくないと聞いてるけど」
「ふふふ…… 実はね── 本当に内緒だからね。それはまったくの嘘なんだ」
「嘘?」
「んん。実は、あの二人はとても仲がいいんだ。ずっと文を送り合っているほどね」
「え?あのお二人が?そんな……」
紫式部と清少納言の不仲説はそこまで浸透しているのか。にわかには信じられない。と言うような表情をしている美津子姫。そしてしばらくして、何かをひらめいたような表情になった。
「ねぇ、式部宮家の盗賊騒ぎって、もしかして」
「そう、そのとおり。実は式部宮家に現れた男は、盗賊などではなく、紫苑姫と美緒姫との間を行き来する、文のやり取りをしている者だったんだ」
それから僕は美津子姫にことの一部始終── 今日の出来事までをこと細かに説明するハメになった。
貴重な時間を、もっとほかのことに使いたいような気もしたのだけど。でも僕の話をウンウンと熱心に聞いてくれる姫の姿に、これはこれでいいのかな。とも思う。
さっきまでの僕だったらまだ、この時間が永遠に続いてくれたら。と考えていたかも知れない。
でもミカエルに言われて思った。またきっとどこかの世界で美津子ちゃんには会えるのだ。その時がいつになるのか。それを考えて過ごすのも悪くはないだろう、と。
また右腕が痺れるように痛くなって目を覚ましてしまった。今は何時頃なのだろう。かなり夜も遅いはずだけど。
その腕の上に美津子姫の頭がある…… ってことは、僕はまだこの世界にいるのか。
眠気に負けて薄れ行く意識の中、僕は頭の中で美津子姫にさよならを告げたのだけど、まだしっかりと彼女は僕の腕の中にいる。生まれたままの姿で、無防備に寝息を立てる美津子姫が。
もう一度、頭の中で美津子姫に別れの言葉を告げる。彼女をぎゅっと抱きしめながら。
ありがとう美津子姫。短い間だったけど、君とこうして仲好くなれて僕はとても幸せだったよ。
丑の刻を過ぎれば、僕は元の『天使』に戻ってしまう。君が次に目覚めた時、ここにいるのは僕ではない僕なのだ。
できればそんな僕と、これからもずっと仲好くして欲しい。
ありがとう。そして、さようなら美津子姫。またどこかの世界でお会いしましょう。
(未来を泳ぐ日1.5 -丑刻の天使- 完)
最初のコメントを投稿しよう!