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(アンジェラ…… 聞こえる?)
できるだけ意識を集中させて心の中でそう言ってみる。
(ごめんなさい宗太郎。今どこですか?)
聞こえた!まるで目の前にアンジェラがいるような、クリアな声だ。
(どこって…… こっちが訊きたいですよ。ここはどこなんですか?)
(時空を渡る際に、ちょっとした手違いがあったようで…… 申し訳ないのですが今いる場所の状況を、なるべく詳しく伝えていただけませんか?)
なるべく詳しく、ね。
(なにか、とても上品な寝殿造のお邸にいるみたいですよ。建物の造りも外に見える庭も立派ですから、どこか位の高い貴族の家なのではないでしょうか。
さっき有佐── 一緒に戻った女性が僕を起こしに来ました。僕の乳兄妹だと言って。着ていた服も立派なものだったから、すごく裕福な上層階級の貴族なのかも知れません)
これでも日本史とか古文とかは好きだったんだよね。成績は別にして。どう考えてもここは昔の貴族の家っぽい。
(さきほどの女性が、現れたのですか?)
(ええ。だって一緒に来ちゃったのでしょう?)
(いいえ。彼女は無事に元の世界に戻っています。トラブルに巻き込まれたのは宗太郎、あなただけのはずです)
なんだって?じゃあ、さっき現れた有佐は何者?
(それも含めて、これから調査をして行きます。もう少し、そちらで待機していてください)
頭の中で思っただけなのに、アンジェラに伝わってしまったようだ。
(ええ。連絡、お待ちしてます)
仕方なく僕は布団から出て、有佐の言いつけどおりにトイレに向かう。えっと寝殿造の対屋だから、きっとトイレは……
部屋に戻り、ぼーっと庭を眺めていると、やがて有佐が朝食を持って現れた。お膳の上に用意されたそれに箸を伸ばす── 美味い。有佐は僕が休んでいた寝床を片付けている。この建物のことや僕の立場なんかはわかるのだけど、ここはいったいどこ?何時代?ま、あとでアンジェラに訊ねてみよう。
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