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Prologue. Flash Point
この宇宙は何百億年もの遥か昔に、何もない無の時空から突然生まれた。
『ビックバン』と呼ばれるその時点を境に、この宇宙に存在する全ての物質が生まれ、そして物凄い勢いで拡散を始めたのだ。
天文学者や物理学者の計算によると今でもこの宇宙は拡散を続けている── つまりは拡がり続けているらしい。
今後は拡散を続けるのか、収縮に向かうのか。天文学者や物理学者達はその計算に躍起になっている。
どうやら星々の間にある未知の物質『ダークマター』と、未知の力『ダークエナジー』の量がその鍵を握っているそうだ。
そんな未来のシナリオは天才達に任せることにして。まずは現時点の話。
拡がっているのは物質だけではない。時空の数も想像を絶する勢いでその数を増やし続けている。
この宇宙で生活する我々は生まれてから死ぬまで、まるで一本の道を進んでいるかのように錯覚してしまっている。
しかしこの宇宙には我々の知らない違う時空が無数に存在するのだ。
解りやすく説明するならば、人は誰でもどこかで選択肢にぶつかる。Aに進むべきか、Bに進むべきか……
人生と言う観点からは、選んだほうの道しか見えていないのだが。この宇宙には確かにA、B双方の世界が存在しているのである。
この分岐点は、その瞬間ごとに現れる。ある人物の人生を仮に80年として、生まれてから死に至るまで、どれだけの分岐点を通過するのか。
それはまさに、想像を絶する天文学的以上の、1の後に0が無限に続く数字である。
例えるならば…… ある人物が生まれた時、腕時計の部品を1つ1つに分解して小さな箱に収め、それを振り始めるとしよう。
死に至った80年後に、振り続けた箱を開けてみたら── 分解する前の、元の腕時計に戻っていた。
80年の旅の果てに辿り着いた地点とは、そんな偶然をも遥かに超える事象が起こるほど、奇跡と呼ぶには余りにも畏れ多いほど低確率な地点なのである。
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