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1. For the Heroes
目を覚ました場所── そこは洋風ホテルの部屋のようである。
ベッドに仰向けの状態。天井にはシャンデリアのような照明が見える。
明かりは灯っていないが、代わりにレースのカーテン越しに差し込む陽の光が眩しいほどだ。
朝── 本能的にそう感じる宗太郎。
突然訪れた夜の闇をやり過ごすために大木の根元で横になったはずだ。いったい、ここはどこなのだろう?
仰向けにベッドに横たわったまま強い念でアンジェラを呼んでみるが…… 返答はない。
あの平安時代の時や、アンジェラの命で派遣された諸々の世界のようにはならないのか。
ガチャ。
部屋の中にあるドアが開き、トランクス一丁に肩からバスタオルを下げた男性が現れた。
そしてベッドに横たわったままの宗太郎に向かって言う。
「お!起きたか。早く支度しちゃってくれよ。女子100の予選、始まっちゃうゼ」
高校の同級生、山本泰二である。はて……『女子100の予選』とは?
ベッドから起きてカーテンの向こうの景色に目をやる。
かなり高い階層にいるらしく、街並みが眼下に広がっているのだが…… その街並みがやたら欧風なのだ。
一目でここが日本ではないことがわかる。
ふと視線をカウンターテーブルの上に移すと、そこには横に長いカラフルな紙切れが2枚置いてある。
宗太郎は歩み寄り、そこに書かれている文字に見入る。
『5th IAAF World Championships in Athletics Goteborg '95』
第5回IAAF陸上競技世界選手権'95イエテボリ大会…… 1995年?イエテボリ?
紛れもなく、目の前の紙切れは世界選手権の観戦チケットであることは間違いなさそうだ。
ここは…… 1995年8月のスウェーデンなのか?
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