第1章

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 孫権は周泰の隣にまでやって来ると、彼の武官外套を両手で外す。  彼の周りを一歩ずつゆっくりと回り、小さく頷きながらまた正面に戻った。 「大将・周泰のこの傷は、予が県令の頃に身を挺して庇って受けた傷じゃ」  腕の傷に手を当ててそっと撫でてやる。脇に回ると続ける。 「これはその翌年の戦で予を庇ったせいで受けたもの。これも、これも、これも、全て予の為に身代わりで負った傷ばかりじゃ」  昔を思い出し余韻に浸る。周泰は身を震わせて声を押し殺し、涙するのに耐えている。  忘れずに覚えていてくれた、あの日の約束を。感激でどうにかなりそうだった。  下賤の出ということで、名士らから謂われない誹謗中傷を受けた。  職務を遂行するに際して幾度も嫌がらせをされた。  正しいことを否定された。 「皆、心して周泰の如きを目指すように」  それら全てに余りある孫権の言葉が周泰の忠誠心を満たしてくれる。  徐栄と朱然は三歩退いて周泰に対して片膝をついて礼を取った。顔は赤くなっており、自らの行動を恥じている。  この一件以来、両将軍は大将・周泰の命令を無視することはなくなったという。
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