第1章

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◇  中華の版図、南東は海沿いにある揚州。その州を構成する一つ丹楊郡、時の領城十数の十万以上の戸数を抱える有力郡だ。その東部の県境に小さな廃城がある。  遥か遠い昔、楚国の軍勢が建築し防衛の拠点に利用していた。長年に渡り打ち捨てられていて、今は崩れた城壁が目立ち草花が生えて遠目にはちょっとした山かと見間違えるほどだ。  江東の支配者は現在孫策の軍勢。江東の覇王と呼ばれる彼は、若くして多くの軍民を従える流星のような存在。  彼には弟が居た。年齢はやや下り未だに十代の後半、子供を少し出ただけで青臭いひよっこでしかない。  兄を支えるために県令に就いている。そう呼べば聞こえは良いが、実際は内務を何一つこなすことができないお飾り。  実質的な政務は全て兄の部下である呂範に任せてしまっていた。  日々遊び歩き、散財しては尻拭いをさせる。出歩く際に身分卑しい兵を護衛として伴っているものの、身辺の保持に無関心と評して良い程に警戒が無い。  今は争乱の時代、あまりにも注意に欠けていると叱責されるべきだが、彼を叱ることが出来る者は近くに居なかった。
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