第1章

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 ある時、兄孫策が軍勢を興し領内の賊徒を掃討に出ることになった。弟である孫権も幾ばくかの兵を持たされ県内の治安維持に繰り出した。 「面倒だな、今日はもう休もう。あの廃城にでも拠ろう」  さほど巡回もせずに、東部にある城の跡地で野営をすることを早々に決め込んで事後を部下に任せてしまう。  部将らが全てを引き受け駐屯準備の指示を行う。孫権は視察すらせずに、自身の幕に籠り怠惰に過ごしていた。  軍勢が野営準備をするところをじっと見ている者が居た。このあたりの賊徒で、越の山中に住む賊で山越賊と呼ばれている者達。  偵察は急いで山に駆け戻り、首領である祖植(ソショク)にことの次第を声高らかに告げる。  岩の匂いがする場所に夕日が差し込んでくる。すぐに動けば道に迷うことも無い、多少暗くともこのあたりは彼らの庭だ。 「野郎ども、俺達山越の自由民を殺しに来た役人が廃城でのほほんと休んでいる。周辺に他に軍は居ない。誘いでも何でもねぇ、これは抜けた将に率いられた隊だ。すぐに出て一泡吹かせてやるぞ!」 「応!」  虐げられ、疎まれ、搾取され、土地を奪われた民が憎悪を抱いて武器を手に立ち上がる。
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