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その奇妙な店には何でも置いてあった。
ローレンの万事屋。
「ローレン」
「何だ?」
「下ろし金が割れた」
「あるぞ。3ギウスな」
「ありがと」
ローレンにギウス銅貨を三枚渡して下ろし金を受け取った。
私とローレンは幼なじみだ。
私は何でもある近所のローレンの店に暇さえあれば顔を出してる。
ローレンの店は面白い。
看板は何も出してないし、商品棚はごちゃっとしてすごく見にくい。
けれどあれが欲しいといえば、ローレンは柔和な笑顔でどんなものでもすぐに出てくる。
ローレンは魔法使いみたい。
私は連日のようにローレンにあれはあるかこれはあるかと尋ねてみた。
小さな子供の頃はただそれが楽しかった。
でも毎日毎日会っていれば気がついてしまう。
私が段々と“女性”になっていく様に、ローレンも段々と“男性”になっていく。
ローレンが好き。
この店には何でもあった。
たった一つを除いて。
「それでさ、ローレン」
「うん」
「水を弾く長靴は」
「あるよ」
「臭わないランプの油は」
「あるよ」
「美味しいクッキーとかチョコレートとか」
「うん、あるよ」
「魔女の媚薬」
「うん。効果は保証しないけど」
「お高い赤ワイン」
「ケイシー、お酒弱いだろ。あるけど」
「この変な管がついてるの何?」
「さあ?」
「紅茶の葉」
「うん。オススメはアールグレイかな」
「質の良い鉄鍋」
「うん」
「花のついたセンスの良い髪飾り」
「うん。センスの良いやつは自分で選んでくれ」
「この真っ青な薬、何?」
「知らない方がいい」
「珈琲豆を挽く機械」
「うん。この前親父が面白いギミックの仕入れてきたよ」
「……全部ある?」
「うん」
「ローレン」
「うん」
「好き」
「…ごめんな」
この店には私の一番欲しいものだけがない。
私の事を好きなローレン。
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