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「空き缶をぶつけてしまったことは謝ります。でも怪我がなくて良かったです。本当にすみませんでした」
そう言い俺はこの男から早く離れようとこの場を立ち去ろうとするが、
「待ってくださいよ。ぶつけといて怪我がなかったら謝って終わりですか?」
「うっ……何ですか。お金が欲しいんですか?」
もっともな話だが自分はまともな職についていないのでお金のことになると親に頼るしかないのだがそんなことになったらちゃんとした職に就けと言われてしまうことだろう。相手がどれだけ要求してくるのだろうと怯えながらも相手の反応を待っていると意外な言葉が返ってきた。
「いや、お金なんて要りませんよ。その代わり今から私の店に来て欲しい、ただそれだけです」
「えっ? それだけでいいんですか」
助かったお金のことは心配なさそうだ。だけど今から私の店に来て欲しいってまさか怪しい薬とか高価な物を買わされたりとかしそうだな。そのときは逃げればいい。日ごろからトレーニングしているので体力には自信がある。
「では私についてきてください」
俺は歩き出した男の後を追いかけるように歩き出した。
「着きましたよ。ここが私の店です」
男が立ち止まり言った。確かに見れば店なのだがやけにボロボロというか古そうな店だ。というかこの店に来るのに随分と歩いた。それも裏道というか路地裏のような狭く暗い道しか通ってこなかった。全身黒い服を身に纏っている男はその暗さに紛れるようだったので見失わないように追いかけるのが難しかった。
ギギイィィ……
「さぁ、お入りください」
俺がそんなことを思っていると男が店の扉を開けて入るように言った。俺は中に入る前に扉から店の中を覗き込む。店の中には商品らしきものは見当たらなく机と椅子があるだけで本当に店なのかと疑うほどだった。
だがここは言われた通りにしよう。ここまで来たんだから……それにこれから何が起こるのかドキドキしている自分がいた。俺が店内に入ると男も入ってきて店の扉を静かに閉めた。
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