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「世の中には貴方より強い人がたくさんいる。それは生まれ持った才能や運と言った勝負事に必要なものを全て持っているから。貴方みたいに努力する人はたくさんいますがほとんどの人がその才能を持った人には敵わず、諦めて夢を捨ててしまう。不平等だと思いませんか? いくら努力しても認められない、才能がなくてはやっていけないこの世界に」
「……」
男の話を黙って聞く。さっきまでのイライラはもうなくなっていた。何故かと言うと男の話に共感できる箇所がたくさんあったからだ。どんなに努力しても才能あるものを超えることはできない……まさにその通りだと思った。男の話に俺は吸い込まれるように、ただ静かに聞いていた。
「ですがそれを覆す力を手に入れられる物があるんですよ」
そう言いながら男は小さな箱を開けた。箱の中には薬と思われる物が一粒入っていた。
「それは何だよ」
見るからに怪しい……まさか麻薬じゃないだろうなと俺の考えを読んだかのように男は俺に言ってきた。
「麻薬とかそんな怪しい物ではありませんよ。ただのドーピング剤ですよ」
「ドーピング!? そんなことしてばれたら!」
どんな競技にでもドーピングは禁止されているのだ。だが男はそんな心配はないとニヤリと笑いながら言った。
「この薬はドーピング検査に引っかからないようにできているんですよ。どんな検査を受けても決してばれる事はないので大丈夫ですよ」
「でも、俺は……俺は俺自身の実力で勝ちたい。ドーピングなんて卑怯な真似だけはしない!」
俺にもプライドというものがある。俺は自分の力で勝ち取ったものにこそ本当の価値があると思っているからだ。だが男は俺の言葉を鼻で笑った。
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