探偵は止まれない

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 ――誰だ。  瞬時に思考が切り替わる。手の『元』を探っていくと、女子高生のすぐ後ろに立った中年の男がだらしなく眉尻を下げていた。  俺は男の手首を握ると、そのまま捻り上げる。 「いたたたたたっ! な、なにを……っ!?」 「なにを、は、こっちのセリフだ。いい年したオッサンが盛るなよ。他人に罪をなすりつけてる間も痴漢たぁ、いい度胸してるな」 「わ、私は何も……」 「嘘っ! わたしのお、おし、り……触ってたでしょ……っ」  勇敢な女子高生は、男の頬を平手打ちすると、「次の駅で降りて。自警団のところまで連れていってあげる!」「そんな……痴漢をしていたのはそっちの男だったはずじゃ……」「残念ながら、糾弾されながらも犯罪を続けるほど、度胸がないんでね、俺は」  ザワザワと周りが騒ぎ出す。電車が静かに次の駅のホームに滑り込むと、少女は親父の手を引っ張って車両から降りていった。残された人間たちは、俺の顔を見ると、誰もが一様に曖昧な微笑を浮かべて下を向いた。  ――まったく、ついていない。  今日は厄日なのだろうか。このまま何事もなく家にたどり着ければいいのだが。  それにしても、何かを忘れているような気がする。それが『何』なのかはわからない。でも、重要なことのような……。  ――忘れるなんて、俺も歳を取ったかな。  考えてみたら、あと数年で四十の大台に乗るのだ。この稼業も、そこまで続けられるものなのか。同業者には、五十間近でも仕事をしている人間はいたが、大体は引退、もしくは弟子をとったり、ノウハウを人に売ることで生計を立てている。  俺は弟子をとるつもりもないし、人に教えられるようなノウハウもない。今のうちに貯金を作って、悠々自適な老後を送ろうか。『老後』と言うにしては、ちょっと早すぎる気もしたが。  ……柄にもなく将来の心配をしていたら、尻を弄られる感覚がした。  ――また痴漢か?  というか、俺のような冴えないオッサンのケツを触って何が嬉しいのだろうか。なんとも奇妙な――とりあえず犯罪には間違いないのだから捕まえておこうかと思ったそのとき、ジーパンの尻ポケットから『何か』を抜き出された。
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