奇妙な店 メガネ堂

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 新宿駅で降りた。  辺りには雑多な人と待ち合わせ場所を忘れた男たちがいた。  彼女を待つ男たちは皆こぞって、待ち合わせ場所を思い出している。  私は今年で28歳になる。昨日、田舎の母から誕生日祝いにピンク色のネクタイが送られてきた。  私は何とはなしにそのピンク色のネクタイを絞めて、複数のお得意様の会社を訪問していった。  私の仕事はパソコンの修理やサービスだ。大手西第三サービスセンターの営業マンだ。  主に、お得意様の社内のパソコンが正常かの点検を一年で三回と故障の場合は無償で修理をしている。    その日は、空いた時間が疎らにあった。  新宿駅から喫茶店へ赴いたり、お得意様の会社から近くの公園で時間を潰していた。  その奇妙な店は超高層ビルと頑丈そうなビルの間にあった。  全体的にうらぶれた印象があるが、なにやら本屋らしい。  夕日を受けてこじんまりとしていて、今にもビルとビルに挟まれて潰れてしまいそうだった。かろうじてもちこたえている感じがして、どうしても私には放っておけなかった。  横断歩道で立ち止まり、そのずっしりとした本屋の店をじっと見つめていると。ガラス越しに綺麗な女性が店番をしているのが解った。  私は気を引き締めて中に入った。 「いらっしゃいませ」  その女性は、分厚いメガネをかけているが、細い体に若い生気が張り巡らされ、真っ黒い長髪の一本一本にエネルギーが満たされているかのような。内向的な性格のようだが実にエネルギッシュな人だった。  私は埃の匂いのする店内を歩き回り、数百の本を見て驚いた。  どれも子供向けの本だった。  今時、少子化が危惧されている社会で子供用の本を数百と置いて……。意味や利益があるのだろうか?  この店は将来のことを考えていないばかりか。社会のことも知らないのではないだろうか?  紙の本と同じく古い頭の持ち主なのだろうか?  救いようがなかった……。  今や電子書籍の時代を迎えるか迎えないかの時代だ。  私はパソコンの修理などをしていて、時代に沿って生きていかないと生きていくことが出来ない人間だ。  この店はビルとビルに挟まれて、もって一年後には潰れてしまうのだろう。 「あの……。お気に入りの本と巡り合うのって、素晴らしいですよね?」  メガネの美人は店の台で、読書をしていたが。私に問う。  私は絶望的に答えた。 「ええ、まあ……」
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