奇妙な店 メガネ堂

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 客は私一人だけだった。  随分長い間。本を読んでいたのだろう。話相手が必要だったのだろう。 「このお店は凄いんです! 未来のために建てられたのです! お客様も実感してください! 私、感動して大学を辞めてまでここで働いています!」  メガネの美人は本を置いて力説をした。  私は急に、場違いなところへ来たと思い気分を悪くした。  このメガネの美人は、ただ頭か考えが古いのだろうと思った。 「そうですか? 私には古く……。そして時代遅れの店にしか見えないですよ?」 「そうでもないのです。私も最初はそう思いました。けど、考えてみてください。時代が進歩しても、変わることもなく必要不可欠なもの。それは何か?」  メガネ美人は手まで力強く振って力説をしていた。  その力説ぶりに私は不思議とこの女性に興味を少なからず抱いている自分に驚いていた。  話は私には難しい。強く首を捻っていると。 「明日も来てくださいね。すぐに解りますよ。いや、きっと理解して来るはずです」  私は店の名を聞いた。 「店の名も素晴らしいんです……。明日のメガネ堂です」  自宅のワンルームマンションでしばらく考えた。彼女の言っていたこと。 未来に変わることもなく必要不可欠なものとは?  一人暮らし用の冷蔵庫の食べかけのピザを電子レンジで温めて、窓の外にある植木鉢を眺めていると、急に閃いた。 「そうか! 子供だ!」  ソファで寄り掛かり、食べかけのピザを見つめていると、また急に閃いた。 「そうか! 文化だ! 文化……そして、子供は未来に必要不可欠だ!」  私はそうかそうかと頷いてベットで就寝した。  明日、会社を辞めよう。  次の日に私は新宿駅へと走り、駅からメガネ堂へと息を切らして走った。  殊の外、秋の寒空が身に沁みた。  財布が心配なのだ。  これから、私はどうなる?  でも、これも未来のためだ。  メガネ堂はいつにもまして、うらぶれてこじんまりとしていた。  店内へ入ると、暖かな暖房が効いていた。  店番のメガネの美人はニッコリとして、私の方を見つめてこう言った。 「きっとあなたも解りましたね! あなたもここで働きますね! 私、ここが大好きです! 何せ未来のためになります! これほどの社会貢献なんて考えられません!」  メガネの美人の歓喜の声を聞いていると、店の奥から一人の老人が本に挟まれながら歩いてきた。
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