営業マン 広川

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メガネ堂の前に軽トラックを停めて缶コーヒーを飲んでいると、フッと寂しくなった。 秋の空には強風で木の葉が舞っている。 集客アップを狙ったこの作戦は見事に失敗した。 何故なら子供たちは一度は読んでいる。というより、テレビで観ていたのだ。 断然、本よりテレビアニメの方がいいに決まっている。 「広川さん。そうがっかりしなくても……」 西田が私の肩に手を置いて慰めてくれる。 店の前で二人で悲しんでいると、一人の男の子が店に入った。 12歳くらいの男の子だった。 その子は店内で一冊を苦労して選び出して、分厚いメガネの奥が溜息と共に流れる涙の西田に渡した。 「くださいな」 「ええ……。200円になります」 西田は生き返ったように、急いでレジに戻った。 本を買うと男の子は私の前に来た。 「おじさん。この本くらいだよ。後は全部テレビアニメで観たことあるんだ」 「ふふふふふ……」 私は完敗したショックで、気が少し触れていた。 「でも、他にも俺の知らない本がありそうだよ。ねえ、お客がいないんじゃなくて、本が無いんだよ」 私は飛び上がった。 「そうか! そうだったんだ! 本だ! 誰も知らない感動する素晴らしい童話を創ればいいんだ!」
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