プロローグ

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 正門に行くと、すでに黒塗りの車が待っているようだ。祖父の秘書に促されて、僕は後部座席に座った。秘書は助手席に座り、運転席には僕と同年代くらいの女性が座っている。 「今日の運転手は珍しく女性ですね」 「今日は秘書見習いの卒業試験なのですよ」  不思議な言いぐさで、秘書が答えた。確かに、運転手はどこか緊張した面持ちだ。 「本日の運転手を務めます、西村と申します。よろしくお願いします。飴也様は現在、京都帝国大学病院に入院中ですので、そちらまでお送りいたします」  そういって、西村さんは車を出した。緊張しているとはいえ、けっこう慣れた手つきだ。 「ありがとう。西村さんは祖父の秘書のチームの一員になって、どれくらいになるの?」 「大学を卒業してから、すぐに入りましたから二年ほどです」  そう答えながら、西村さんは赤信号にゆっくりとブレーキをかけた。 「そうか。じゃあ、僕と同じくらいの歳か。学部を卒業したあと、二年くらい大学の研究室で補助研究員をしててね。ゆくゆくは博士をとろうかと考えているんだよ」 「そうでしたか。大学では何を研究されているのですか?」 「主にセラミック系材料についてだよ。西村さんは大学では何を?」 「私は政策学部でした」  そう答えながら、西村さんはアクセルを踏んだ。 「文系か。僕と真逆だね」  そうして、話しているうちに車が病院へ着く。  四階に上がり、祖父のベッドのある個室に入ると、笑顔で僕を出迎えてくれた。 「楽吉よ、よく来てくれた」 「ありがとうございます」  上半身を起こしたベッドにもたれ掛かるようにして座っているが、それでも祖父には威厳が感じられた。 「私は七期四十九年と今期二年、我が国日本の貴族院議員を務めてきた。だが、こうして病床に伏した今、自らの潮時を感じている」 「いえ、飴也おじい様はまだまだ……」 「いいや。私のような者がいつまでも国会にしがみついているようでは、日本の将来のためにならない。中村さんのところや、土田さんのところも若いのが貴族院議員になっておる。どうだ、楽吉。私の意思を引き継いでくれないか」 「しかし、私よりもお父様のほうが、相応しいのではないでしょうか」 「長次(ながつぐ)か。あいつにはこの世界は向いていないと、ずっと前から分かっていた。あいつは陶芸をするのが向いてるんだよ。それ以上でも、それ以下でもない」
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