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私達はしばらくの間、時が止まったようにずっとそうしていた。
すると、玄関先から聞き慣れた声が聞こえてくる。
「…帰ってきたな」
「そうみたい」
斎が私の肩から顔を上げようとしたのがわかって、私は撫でていた手に少しだけ力を加え、斎の頭に顔を近づける。
そして、斎には気付かれないように浅く、唇で髪に触れた。
それはほんの一瞬で、すぐさま私は自分の腕を斎から離す。
考えるより先に勝手に動いてしまった自分に、我ながら驚いてしまう。
斎は顔を上げると、私をじっと見つめていた。
ひょっとしてバレたのかと思い、私は急いで斎から離れて自分の荷物を手にする。
その時、かばんの中から覗いていたチョコレートに気付き、それを取り出した。
「こ、これ、チョコレートね」
私は自分が用意してきたチョコレートを宮下さんの紙袋の隣に置いて、部屋を出ようとする。
すると斎は、私が握っていたドアノブを私の手の上から握り、動きを止めた。
そして、私を自分の方へ向かせると、グイと腕を引き。
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