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ばた、ばた、ばた、と足音を立てながらバス停へ向かう。こんなに走るのはいつぶりだろう、なんてのんきに考えていたその時、僕の視界に突然人が現れた。
「うわっ!」
────ドン
細い路地から急に飛び出してきた一人の女の子。その存在を認識した時にはもう既に遅く、避けきれなかった僕はそのままその女の子とぶつかってしまった。
僕と女の子は、そのまま飛ぶようにして尻もちをついた。しかし、こうしてはいられない僕はすぐに立ち上がり、まだ尻もちをついたままでいた女の子に手を差し伸べる。
「いててて」
黒いワンピースを着て、長い栗色の髪を綺麗にまとめている彼女の側には、黒いキャップが落ちている。
彼女は僕の手を辿るようにして視線を上げると、しばらく不審そうな目で僕を見た。僕を見る彼女の瞳は、色素の薄い綺麗な瞳をしていた。
「……ありがとう」
彼女は、やっと僕の手を取り立ち上がった。貸した手から彼女の手が離れると、僕はまだ地面に落ちたままになっている黒いキャップを拾い上げて彼女に手渡した。
「あっ!」
彼女は両手を一度頭に置いて目を見開くと、ものすごい勢いで僕の手からキャップを取り、それを深くかぶった。
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