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あのとき、魚波たちが妙な話をしているとは思ったが、御子の渡しだとは考えなかった。それで、一男をおそったり、夜祭の見張りをしていた。
そんなときに竹子がやってきた。先日の話を思いだし、問いつめた。竹子は口封じに殺されてしまった……。
それが一連の流れだったのだろう。
「何も、竹子まで殺すことはなかったに……」
一瞬、竹子の死に顔が浮かび、やりきれなくなる。
威が問う。
「八十助さん。全部、あなたの仕業ですね?」
八十助は、だまって、うなずいた。
完全に観念したように見えた。
「八頭さんとこに、つれていこう。この人をどうするかは、あの人に決めてもらえばいい。それが、この村の決まりだろう?」と、威。
魚波は砂雁を見直した。
「砂雁は、どげすうかね? このままに、しちょくの(しておくの)?」
あの暗い岩屋で、二十年も、魚波を待ち続けてくれた砂雁。このまま放置しておくのは、しのびない。
だが、この瞬間、みんなの視線が砂雁に集まった。
全員の目が、ほんの一瞬だけ、八十助から、それた。
とつぜん、わッと声がした。
「銀次?」
魚波がふりかえったときには、八十助は銀次の手をのがれ、背後に迫っていた。
そのまま、とびつかれ、草むらに倒れこむ。
抵抗しようとすると、銃口をつきつけられた。
月の明かりも雲間にかくれ、暗闇のなかに、双眸(そうぼう)だけが、ギラギラ、かがやいている。
その姿は完全に悪魔だ。
魚波は恐怖に、すくんで動けなかった。
「じいさん! もうやめえだが!」
銀次が叫び、引き止めようとする。
八十助は孫の銀次にまで、銃口を向けた。
「来うな。御子は、わが、もらう」
「なんで、そぎゃんことすうかね。御子さまが、ゆるしてごさいはずないが」
「銀次。おまえになら、わかあはずだ。おまえだてて、巫子に生まれちょったら、雪ちゃんとーーそげだないか?」
「そうは……わも巫子に生まれちょったらとは思う。だけど、しゃんこと(そんなこと)今さら言ったてて、どげしようもないがね」
「いいけん。おまあは、あっち行っちょうだ。ジャマすうなら、おまあでも撃つけんな」
銀次は、だまりこむ。八十助が本気だと、さとったのだ。
周囲で、威と吾郷が、じりじりしながらスキをうかがっている。
しかし、八十助は油断がない。誰かが一歩でも近づこうとすると、すかさず、そっちに狙いをつける。
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