四章 金星と闇の大祭

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あのとき、魚波たちが妙な話をしているとは思ったが、御子の渡しだとは考えなかった。それで、一男をおそったり、夜祭の見張りをしていた。 そんなときに竹子がやってきた。先日の話を思いだし、問いつめた。竹子は口封じに殺されてしまった……。 それが一連の流れだったのだろう。 「何も、竹子まで殺すことはなかったに……」 一瞬、竹子の死に顔が浮かび、やりきれなくなる。 威が問う。 「八十助さん。全部、あなたの仕業ですね?」 八十助は、だまって、うなずいた。 完全に観念したように見えた。 「八頭さんとこに、つれていこう。この人をどうするかは、あの人に決めてもらえばいい。それが、この村の決まりだろう?」と、威。 魚波は砂雁を見直した。 「砂雁は、どげすうかね? このままに、しちょくの(しておくの)?」 あの暗い岩屋で、二十年も、魚波を待ち続けてくれた砂雁。このまま放置しておくのは、しのびない。 だが、この瞬間、みんなの視線が砂雁に集まった。 全員の目が、ほんの一瞬だけ、八十助から、それた。 とつぜん、わッと声がした。 「銀次?」 魚波がふりかえったときには、八十助は銀次の手をのがれ、背後に迫っていた。 そのまま、とびつかれ、草むらに倒れこむ。 抵抗しようとすると、銃口をつきつけられた。 月の明かりも雲間にかくれ、暗闇のなかに、双眸(そうぼう)だけが、ギラギラ、かがやいている。 その姿は完全に悪魔だ。 魚波は恐怖に、すくんで動けなかった。 「じいさん! もうやめえだが!」 銀次が叫び、引き止めようとする。 八十助は孫の銀次にまで、銃口を向けた。 「来うな。御子は、わが、もらう」 「なんで、そぎゃんことすうかね。御子さまが、ゆるしてごさいはずないが」 「銀次。おまえになら、わかあはずだ。おまえだてて、巫子に生まれちょったら、雪ちゃんとーーそげだないか?」 「そうは……わも巫子に生まれちょったらとは思う。だけど、しゃんこと(そんなこと)今さら言ったてて、どげしようもないがね」 「いいけん。おまあは、あっち行っちょうだ。ジャマすうなら、おまあでも撃つけんな」 銀次は、だまりこむ。八十助が本気だと、さとったのだ。 周囲で、威と吾郷が、じりじりしながらスキをうかがっている。 しかし、八十助は油断がない。誰かが一歩でも近づこうとすると、すかさず、そっちに狙いをつける。
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