四章 金星と闇の大祭

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それで、魚波が危ないと思って帰ってきたのに。何をかんちがいしたんだか、魚波は、おれから逃げようとするし……」 「ごめんだよ……わも犯人が御子さまをねらっちょうことには気づいたけん」 「なんだよ。おれが犯人だと思ったのか? ひどいな。おれが自分や家族のために、何人もの人を殺すような人間だと、本気で考えたのか?」 「あんまり、おぞかったけん。威さんも銀次も、みんな、怪しに見えて……死んだと思っちょった砂雁は生きちょうし……もう頭んなか、あやがなて(ゴチャゴチャで)……」 威は、ちょっと、きつめに、魚波の頭をポンポンした。笑顔が、まぶしい。 「見損なうなよな!」 「うん。でも、威さんだてて、えらい剣幕だったぞね。おぞにもなあが(怖くもなるさ)」 「そりゃ、おまえの命にかかわることだ。必死になるよ」 胸の奥が、きゅっと痛む。 こういうところが、威はズルイ。 なんだって平然と、そんなことを言ってのけるのだろう。威のは、純然たる友情だと、わかってはいるのだが。 「……まあ、ように考えたら、威さんや銀次が犯人なわけはなかった。二十年前の事件も、今回の事件も、犯人が同じなら。二十年前、威さんやつは、まだ子どもだ」 二十年前にも村にいて、当時から、それなりの年でなければ、犯人には該当しない。 八十助は、どちらにも、あてはまる。 「でも、なんで、八十助さんが……」 魚波たちは、いっせいに八十助を見た。 八十助は銀次に押さえられて、うなだれている。 銀次が自分のことのように、沈痛に、つぶやいた。 「わが、最初に変に思ったのは、キジ撃ちの日だ。帰ってきて、猟銃を片づけえかとしたら、もう一挺が見当たらんだった」 米田家には、猟銃が二挺あるのだ。 魚波も見たことがあるので、知っている。 「しばらくして、じいさんが帰ってきた。そげしたら、いつのまにか銃も、もどっちょった。早乙女さんの死んどうのが見つかったのは、そのあとだ。 トラさんや寺内さんやつが殺さいた晩も、朝方に一人で、もどってきた。 まさかと思っちょったけど……こないだ(このあいだ)から、二、三日、続けて出ていくけん。夜祭のためだ。こうはいけんと思って……」 魚波は気づいた。 「わと竹子の話しちょうのを小耳に、はさんだときは、全部、聞いたわけだなかったんだ。全部、聞いたなら、あのとき、わが殺されちょうもんね」
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