四章 金星と闇の大祭

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そのまま、魚波の頭に銃口をつきつけた。 (このまま、殺さいか。さっきは御子さまの力で生き返った。でも、御子さまを腹から出さいたら、もう……) かんねんして、魚波は目をとじた。 そのとき、にわかに月が明るくなった。雲間から、こうこうと顔をだす。 月光がふりそそぐ。 威の上にも。吾郷の上にも。銀次や八十助の上にも。そして、魚波の上にも。 光を感じて、魚波は目をあけた。 正面から、八十助と目があう。 すると、なぜだろう。 八十助の手がふるえだす。 八十助は引金をひくことができない。 次の瞬間ーー銃声が一発、とどろいた。 魚波は自分が撃たれたのだと思った。 でも、どこも痛くない。 八十助が、ぐらりと倒れていく。 魚波のほうへ、わずかに手を伸ばしながら。 その口が、動いた。 「ーー魚波! 無事かッ?」 すぐに威が、かけよってくる。 泣きだす魚波を見て、威は、かんちがいした。 「怖かったんだな。それとも、どっかケガしたのか?」 魚波は首をふる。 「おかねちゃんーーて言った」 「何?」 魚波は威の手をかりて、起きあがる。 たおれた八十助を見る。もう息はない。 少しは救いになったのだろうか。 最期に、この人の見たものが、魚波だったこと。 少女の姿をした、魚波だったことが。 かつての恋人の姿を、そこにかさねて……。 「おかねちゃんと、言った。お鐘は……茜の俗名だ」 茜が神社の巫子になる前、引き離された恋人ーー それは、八十助だったのだ。 茜や八十助が若かったころ。 そのころは今より、もっと村の空気は、げんしゅくだったという。 巫子は神社の巫子になるか、村医者の助手になると決まっていた。病人やケガ人のために、血や肉を提供するものとして。 だから、巫子の結婚相手は、かならず巫子か元御子。血を薄めてはならないという風習が、暗黙のうちにあった。常人との結婚なんて問題外だ。 今でこそ、その風習は遠くなった。巫子と常人の結婚も、ゆるされるようになった。 そういう村人の意識をそっせんして変えていったのは、八十助だったと聞く。 最初は勝とトラの結婚も反対されていた。その結婚に賛成し、応じない人々を説得してまわったと。 それは、きっと、結婚をゆるされなかった自分と茜を思いだしたからだ。
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