5章 猛将の企み

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大きな石壁に囲われた邸で陽が沈み始めた頃、先程まで静かだった庭が騒がしくなっていた。 出掛けていた男達が次々に帰ってきている。それぞれがラクダを牽き、邸の裏手の庭にきて、手綱を小柄な少年に預けていく。 愛美はその様子をザイードの居室のバルコニーからぼんやりと眺めていた。 手綱を預けられた肌の黒い少年は男達が立ち去ると、ラクダにブラシを掛け始めた。 黒装束を纏った男達は一仕事を終え、大きな声で語り合いながら邸の中へと入っていく。豪快に笑い、肩を組む。その姿はとても上機嫌に見える。 何かいいことでもあったに違いない。 愛美はバルコニーの手すりから少し身を乗り出し周辺を見回した。共に出掛けたはずのザイードはその場に見当たらない。 先程の少年は一番大きなラクダを念入りに手入れしている。根の入れようからしてそのラクダが誰を乗せるのか、愛美にも直ぐに理解できる。この邸の主人、ザイードのラクダだ。 ザイードはまだ、帰ってきてはいないのだろうか── 少年はブラシをかけながら、ラクダの体を隈無く点検し、厩舎の中へと連れていく。 愛美は無意識に溜め息が零れ、手すりに両肘を預けて頬杖をついた。 そんな愛美の腰がふわっと浮いた。
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