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「俺のことがそんなに待ち遠しいか」
「きゃっ」と、短く声を上げた愛美のうなじにザイードはくすりと笑いながらキスをした。
外から戻ってきたザイードは真っ先に愛美の居る自分の居室へ足を向け、バルコニーから下を覗き誰かを捜す仕草を見せる愛美の様子を、居室の扉からしっかりと伺っていたのだ。
愛美は驚きながらも咄嗟に否定した。
「そっ…別に待っていたわけじゃな…っ…」
そう。そんなはずはない。毎晩のあの行為だって嫌でたまらなくて、朝だってザイードが出掛けて一人になれた途端にホッとする。
躰にまとわりつく重苦しい腕に囚われる事もなく、唯一自由を堪能できる時間をつい今さっきまで過ごしていたはずで……。
「どうした。言いたいことがあるなら言ってみろ」
「…っ…べつに何もっ」
「なら俺が言ってやる」
「……っ…」
ザイードは愛美の頬を軽く摘まむ。
「なぜこんなに顔が赤い」
「……っ!?」
「なぜ嫌がっていながらこの腕にはそんなに力がこもらない?」
熱を持つ頬を指摘され、焦ってザイードの胸元を押した手を今度は掴まれる。
突っぱねたつもりの腕は力を抜いたザイードの手に簡単に捕らわれて、愛美は間近で顔を覗き込まれた。
「何故だ…」
「それは…っ…」
戸惑いながら目を反らす。そんな愛美をザイードは真っ直ぐに見つめた。
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