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午後の陽射しが照りつける──
この邸は横に広いが高さは二階までと階数はない。広い砂漠の地で太陽に近くなる高い建物は嫌煙されるからだ。
低い代わりに建物の上には陽射しを一旦、遮断するように大きな屋根が設けられていた。
屋根と邸の間には程よい空間が開いている。そこを風が通り邸の到る所から涼しさを運んでいた。
これがその土地に住む者の知恵というものだろう。
陽射しは強いが風はサラリとしていて心地好い。日本の湿気を含んだ夏の暑さとは程遠い爽やかな気候だ。
居室から広いバルコニーに出て下を覗けば到る所で掃除をしている使用人達が目についた。砂を掃く手には大きな葉っぱが握られている……
ココヤシの木の葉で作られた“即席のほうき”というところだろうか。
愛美はそれを眺めていた。
その愛美の目に物陰からちょいちょい手招くような動きをする腕が覗いている。
愛美はそこに視線を止めた。
いぶかしげジッと見ているとちらっと隠れていた壁から目が覗く。
くりっとした大きな目だ。
そしてモジャモジャした白髪混じりの髭とぼってりとしたお腹──
すべてが三分の一ずつ壁からはみ出すように見えていた。
「ターミル?…」
愛美は顔と名前を思い出してポツリと呟いた。
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