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休日出勤
ゴールデンウィーク前半の土曜日。
俺は会社の自席でパソコンと向き合っている。
夏商戦に向けての販売目標と、100近い担当商品の前年比を集約しExcelで資料作成するために。
期限は連休前だったが約半分を残してGWに突入。全然間に合わず課長に休日出勤を言い渡されたのだ。
エンターを押しデータを保存。これで全て完了だ。
「……終わった…」
小さくガッツポーズ。そして両手を突き上げ伸びをした。午後一で出社して途中休憩を挟んではいたが、パソコンを長時間凝視しているとさすがに目も肩も背中も痛い。
「よしっ!これでよーしっ!」
俺の後方から力強くエンターを押す音と、野太くしゃがれたデカイ声がした。同期の稲垣だ。
俺はデイバッグを肩から掛け立ち上がる。
「お疲れ。俺先に行くわ。もうじき配送軍団が戻ってくるから、課の電気だけは消しとけよ。じゃあな」
俺はそう言いながら出口に向かう。
営業や事務は基本休みだが、外食産業を得意先とするうちは、急な注文にも対応するために配送部門は稼働している。
「あー、トッキー待てって!駅南でいい店見つけたんだよ。喉を潤しに行こうぜー!トッキー!」
潤し過ぎてそのダミ声になったんだろ?酒で潰したって丸わかりだ。どんだけ酒豪なんだよ。営業マンは声も命なんだぞ。それにトッキーって呼ぶなよ…まったく……
脳内で同僚にタラタラ文句を言うと、俺はゆっくり振り向き、コホンと小さく咳をした。
「えーーえーー……稲垣君、トッキーと呼ぶのはやめてもらえるかな」
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