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東連絡通路を歩いて駅南に出た。
大きい通りから飲み屋街に入り、一つ路地を曲がり、また曲がり、次第に脳内地図は待機状態になった。
「稲垣……道、合ってんのか?」
右にも左にも曲がりに曲がって、昔は賑わってたんだろうな、的な少し寂れた界隈を歩いていた。
「おうよ!長年ここで頑張ってる良い店なんだって!」
少しはや歩きになった奴は一軒の店の前に立ち止まり、ここだ!と言いながら早く来いと手招きした。
漸く到着したようだ。
学生時代ラガーマンだった稲垣はガタイが良い。俺は中肉中背、仕事は社用車の移動が主だから運動不足。目的地に到着した時点でかなりへばっていた。
「どうもー!今晩はー!」
長年この場所で営んで来た事を思わせる、かなり古い格子戸を開けて奴は店内に入っていく。
紺地の暖簾には『きなせや』と白抜きで染められていた。
俺も軽く会釈しがら、奴のあとに続いて店に入った。そこは、六十代後半の女性店主が一人で切り盛りする小さな小料理屋だった。
既に数品の料理が大皿に盛られている。
俺達はカウンターに座り生ビールを注文した。
「まずは乾杯な!休日出勤、お疲れ様さまー!」
なんちゅう音頭だよ。
「乾杯」
俺達はジョッキを軽く合わせ気泡の弾ける黄金の液体を喉に流し入れた。
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