休日出勤

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予想通り、酒豪の稲垣はもう一軒馴染みのスナックバーへ行くと言った。 俺も誘われたが、腹も一杯だしこれくらいのほろ酔いが丁度いい。疲れた体を思い切り伸ばして横になりたい。俺はやんわり誘いを断り、きなせやの前で奴と別れた。 抜け道のような細い路地がいくつもあって、かなり奥まった場所にある小料理屋。 隠れ家としてなら申し分ないだろうが、初めての俺にはちょっと厄介な状況だった。 記憶を頼りに駅を目指す。が、曖昧な記憶と勘だけで歩く俺に、駅舎はなかなかその姿を現さなかった。 「あ、れ……さっきここを通った……」 気のせいか?さっきから同じ所をぐるぐる歩いてるような気がする。 初めて来たとは言え迷路に迷いこんだような感覚に戸惑った。 「行止まり…だ……」 今度は袋小路に捕まった。大して呑んでいないつもりだったが、ここまで道に迷うのは日頃の疲れと、案外稲垣のペースに乗せられていたのかもしれない。 ふ、とため息混じりに失笑する。そして踵を返した。 その時―― その店は、俺の視界に映り込んだのだった。
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