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彼女の店
その店はパープル系の淡い照明にぼんやり照らされていた。ここからそう遠くない距離。敷地が広いのか、ぽつんと一軒だけまるでそこで浮いているように小さめな店構えで存在していた。
隠れ家とか……穴場……?
俺の足は自然と淡い光に向かっていた。
幼い頃、町内のイベントで宝探しをして、神社の階段の下に置いてあった白封筒を俺が一番に見つけた。あの時のような高揚した気持ちが沸き起こる。
あと数メートルという所で立ち止まると、
入り口の大きさに合わせ、ただ木材を切りだしたような何の装飾もないドアがそこにあった。
長年使用しているのか、風雨に晒されてかなり傷んでいて、ドアノブも錆なのか鍍金が剥がれたのか、やけにくすんだ色をしている。
店の名前を示す看板はなく、 open と書かれた木製プレートが下がっていた。
営業中なのは間違いないようだ。
「占いの店か……?」
不思議な佇まいに占い師がいそうな気配がする。中はダークパープル一色で、口元しか見えないような黒いレースのベールを被り、水晶に手を翳して待っているんだ。
単なる妄想だけど。
こだわりのある店は看板も出さないと聞くし、きっと此処もそんな拘りがあるのだろう。
勝手な推測だけど…な。
きなせやの古い格子戸を思い出す。外観が古めかしかろうと、旨い料理を提供してくれる穴場は実際有るんだ。
良い店を見つけたと稲垣に紹介出来るかもしれない。
歩き回ったせいで足が痛かった。喉も渇いているし一先ず座りたかった。
迷わず古びたドアの前に立ち、俺はくすんだ色のドアノブを握った。
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