彼女の店

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珍しい内開きのドアを押し一歩中に入る。 ドアは俺の手を借りずともキィーと小さな音を発てて閉まった。 そして俺はそのままその場に立ち尽くした。 まず、暗い。 正面右側、時計の11時と3時に線を引いたような位置にカウンターがあり席は五席ほど。演劇のセットのようにも思える配置だった。 照明は入り口と、棚の両端を挟む二本の柱に一つずつ。蝋台を型どったウォールランプが控えめな明るさで入り口とカウンター付近を照らしているだけだ。 ポスターも絵も花もない。営業中とは思えないほどガランとした空間だった。 『きなせや』とは真逆。そんな印象を持った。 どれくらいボーッとしていたかわからないが、カウンター内から聞こえた声に我にかえる。 立ち止まったままの不自然な客だと思っただろうな。 「こんばんは。ありがとうございます、この店を見つけてくれて……リラです。どうぞお座りください」 ちょこんと会釈したた可愛い仕草。だがその後の、射るような熱い視線と少し大袈裟な挨拶が俺を迎える。 『ママ』と呼ぶにはかなり若そうな女性は、口元にぎこちなく笑みを浮かべ俺に席を勧めてきた。 「開いてるの?」 思わず確認する。 「はい」 柔らかな声で言葉が返ってくる。 ……と、なればここで帰るわけにはいかない。 少しの戸惑いを隠しながらながらカウンターに近づいた。
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