プール警備バイト

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しかしながら、何もしない、というのはそれはそれで意外とつらい。 そのため、目の前を通り過ぎる水着のお姉さんのカップ数を目測して精神的保養に努めたり、「お兄さん何してるのー?」なんて無邪気に話しかけてくるちびっ子を「お兄さんは悪い人からみんなを守ってるんだよー」なんてファイティングポーズの構えを見せてからかってみたり、昔ドラマの主題歌か何かでプチヒットを飛ばしたけれどそれからは鳴かず飛ばずなアーティストや某動画サイトで絶賛活躍中という芸能人オーラがまるでない歌手、売り出し真っ最中らしいが見事に売れそうな気配を感じさせないロコドルみたいなのが波のプール上のステージで歌っているのを温かい目で見守ったりして17時の閉園をだらだらと待つのである。 ときおり波プールステージから波打ち際に向かいスプラッシュ放水ショーが行われ、湘南乃風とか夏っぽい歌に乗せて馬鹿騒ぎする時間がある。 我々警備スタッフはステージの端っこに立ち横からそれを見守るのだが、たまに放水のアーチになぞるように虹が見えることがあり、私はこれを唯一の職業特権だとして毎度楽しみにしている。 プール内にぎゅうぎゅうに敷き詰められた人々に救いの手を差し伸べるかのように虹の橋が架かっていて、でも虹なんてお構いなしに踊り狂う人々を見て、ひとり面白くなる。 何が十人十色か、水を被れば皆水色ではないか。
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