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「しっかし、こんだけの荷物を抱えて来るとはさすが長谷川さんだね。なんかちょっと新婚家庭ちっくな差し入れだけど……。
とにかくリク、長谷川さんの優しさは無駄にするな? せっかくだからお茶でも煎れてくれ」
リクを気遣ってやってくれと言われた件はしっかり失念し、きっと忙しくて長居できなかったのだろう長谷川を気の毒に思いながら玉城が言うと、少しばかり困惑気味のリクの言葉が返ってきた。
「ねえ。……これも長谷川さんの優しさの一つなのかな」
リクが取り出した封筒の中身を見て、さすがに玉城も唖然とした。
【草津温泉、高級老舗旅館『憩』 2泊3日ペア宿泊券 ―――大切な人と、忘れえぬ思い出のひと時を】
玉城はリクの手からチケットを受け取ると、穴が開くほど眺めた。
いったいこれはどういう趣旨なんだろうと考えてみたが、どうにも分からない。
こういう冗談が、好きだったろうか。
「行かなきゃ、機嫌悪くなるかな」
リクが困った顔で訊いてくる。
「……かもな」
ずいぶん長谷川という人間を探求してきたつもりだったが、また少し分からなくなってしまった玉城とリクだった。
◇
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