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急に登場して驚かせてしまったのか、作家の男がグラスに手をぶつけて倒してしまい、水をテーブルにぶちまけてしまったのだ。
3人の男たちがあわあわと立ち上がる。
山瀬が「おっと!」といいながら目の前に置かれていたタブレットを持ち上げ、スーツの男が素早くドアを開け店員にテーブルを拭くものを持ってきてもらうよう頼んでいる。
作家の男は、自分の目の前にあったノートパソコンを持ち上げうろたえているだけで、うんともすんとも言わない。
こういう場合、普通「すいません」ぐらい言うもんじゃないか?
そう思ってテーブルから作家の方へ目を向けようと少し目線を上げた時、ノートパソコンを抱える手がぶるぶると震えているのが見えた。なにか不自由でもあるのだろうか。うつむいたその顔を見ると蒼白だった。
すぐに店員がやってきて、テーブルの上を綺麗に拭き上げてくれた。出版社の男が謝っている横で、作家の方はぺこりぺこりと頭を下げている。
やはり一言も謝らないこの男は、いわゆるコミュ障ってやつなのだろうか?引きこもりだしな。
ようやく部屋が落ち着きを取り戻したところで、改めて自己紹介をして二人に名刺を渡す。出版社の方はセッティングの時点で知っていたが、『あすなろ出版 篠田拓郎』とある。
作家の方は受け取った名刺をしばらくじっと見つめていたかと思うと、無言でパソコンのキーボードを素早く操作した。すると、征治と山瀬の間に置かれていたタブレットが画面いっぱいに文字を映し出した。
『秦野 青嵐(ハタノ セイラン)です。
私は口がきけません。
やり取りはこちらでお願いします』
征治ははっとして、初めてまともに男の顔を見た。
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