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『用がありますので、これで失礼させていただきます。 本日はありがとうございました』 征治達が読み終わるや否や、秦野は立ち上がりぺこんとお辞儀をすると、タブレットとパソコンをショルダーバッグに突っ込み、篠田が「秦野さん!」と呼びかけるのにも応じず、あっという間に部屋を出て行ってしまった。 篠田が慌てた様子で取り繕う。 「なんか、すいません。秦野さん、いつもはとても穏やかで礼儀正しい人なんですけど・・・」 「俺、なんか機嫌を損ねるような質問したっけ?残念だなあ、まだこれから色々話してみたかったんだけど」 山瀬が苦笑いしながら頭を掻く。 「あの、もう一度秦野さんとセッティングした方がよろしいですか?私としても、ユニコルノさんが秦野さんの作品を気に入っていただいたのはとても嬉しいんです。私が一番の秦野作品のファンだと自負しておりますので」 「そうしていただけると有り難いです。なんか作風と本人のキャラクターにギャップがあって、余計に興味が沸いたなあ。ところで、俺のつまらない好奇心ですが、編集さんや出版社さんって作家さんのこと○○先生、て呼ぶ勝手なイメージがあるんだけど、実際はそうでもないんですか?」 「いえ、やはり先生とお呼びすることが多いですけど、秦野さんには絶対に先生などと呼ばないでくださいと最初に念押しされまして。あと本名も呼ばないでくださいと。あ、すいません、今日秦野さんと会われて知られた個人情報等はお約束通り外部に漏らさないようにお願いします。ご本人のたっての希望ですから」 「あの、秦野さんは生まれつき話すことができないんですか?」 征治はふと思いついたことを口にしていた。 篠田はしばらく黙った後 「後天的なもの、と聞いております」 とだけ答え、その後はきつく唇をひき結んだ。
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