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征治が大学3年になったころ、マスコミが父親と裏社会とのつながりをすっぱ抜いた。征治にとっては青天の霹靂だったが、県の有力議員のスキャンダルと芋づる式に明るみに出た会社の粉飾決算が連日マスコミによって流され、父親は逮捕された。 もともと体が弱く入退院を繰り返していた母親は、そのころから衰弱が激しくなり3か月後に亡くなった。 逮捕されたことで信用を失った会社は、元々が父親のワンマン経営だったこともあり、裁判の判決を待たず倒産した。 永年仕えてきた使用人たちに泣かれ、なんとか家の事や奨学金の段取りをつけて東京の大学に戻った征治を待っていたのは、今まで友人だと思っていた人たちの冷たい視線だった。 付き合っていた女性もヤクザと繋がりがあるなんて怖いと去っていった。 慶田盛(ケダモリ)という目立つ苗字が、連日報道された父親のスキャンダルと征治とを簡単に結び付けた。 実は、母は死の直前に父と離婚手続きを取っていた。 母は華族の流れを汲む地元の名家の娘で征治達が生まれ育ったのも母方の先祖から引き継いだ広大な屋敷だった。歴史的価値もあるその屋敷が借金のかたに取られマンションなどになっては先祖と地元に申し訳がたたないと、また二人の息子を守るため両親は離縁という形をとり、征治と弟は母の旧姓である松平になった。 そのことがまた『目立つ名前を変えて責任逃れをしようとしている』と一部の口さがない連中の格好のネタになった。
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