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山瀬は社長室、といっても普段はオフィスの一角を透明なガラスで仕切っただけの場所だが、そこの開口部に立ってこっちを手招きしている。“すぐに、行く”と頷くと、山瀬は自分の机に向かって何か食べ始めた。
社長室に入るとインスタント焼きそばの匂いが充満していて、案の定、山瀬が焼きそばをズルズルとすすっていた。
「また、こんな不健康なもので昼飯終わりですか?もうちょっとましな物食べましょうよ」
「だって、外出るの寒そうだったし。それに、その本読んでたら、面倒くさくなっちゃったからさ」
社長の机の上には2冊の文庫本が置いてある。ちらと見たが、聞いたことのない作家の名前とタイトルが書いてあった。
「ちょっと相談したいことがあってさ。征治、何か急ぎの仕事あるか?」
「大丈夫ですよ。食後のコーヒーでも淹れてきますよ。それまでに、それ食べちゃってください」
「お、サンキュ」
征治の勤める「ユニコルノ」はまだ社員50人足らずの小さな若い会社で、いわゆるお茶くみ事務員などはいない。部長や社長でさえも、基本的には自分で自分の飲み物は淹れる。と言ってもコーヒーはカセット式のマシンが置いてあり、誰でも簡単に美味しく淹れられるのだが。
コーヒーカップを二つトレーに載せ社長室に戻ると、山瀬はちゃんと焼きそばの片付けも終え、応接セットのソファーで先程の本をパラパラめくっていた。
「征治、早く座れ」
そう急かす山瀬の顔は、子供のようなキラキラした目をしていて、ああまた何か面白いことを見つけたんだなとわかる。
「部屋、クローズにします?」
「ん、一応そうしとこうか」
征治は開口部のスライドドアを閉め、壁にあるスイッチを押した。透明のガラスの壁が瞬時に曇りガラスに変わる。
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