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「まあでも、もっといろんなアイデア沸いてくるかも知れない、作者に会ってみたら。ってことで、出版社と作者に会えるようにセッティングよろしくな。あと絶版になってる1冊目も読みたい。ついでに出版社に掛け合ってみて」
いつもの山瀬の癖がでたようだ。山瀬は人間に強い興味を持つ。そして、直接その人間と会ってみないと何も分からないというのが持論で、いろんな人のところへ自ら足を運んで会いに行く。
そして相手からインスピレーションを受けることもあれば、相手の才能が山瀬の持つエネルギーにより化学反応を起こし、新たなものが生み出されることもある。
「了解しました」
山瀬から2冊の文庫本を受け取りながら返事をするが、急に山瀬の手が止まる。
「征治、お前も一緒についてこい。スケジュールの調整頼む」
最近ではそういうことも少なくなっていたので意外な気がして山瀬の顔を見るが、本人は笑っているだけで、特に説明する気もないらしい。
「わかりました。サイトの担当者も同行させますか?」
「いや、まだそんな段階じゃない。上手く料理できるかどうかもわからんから二人でいいよ」
征治は頷いた。
自分のデスクに戻り、早速ネットで出版社の事を調べ始めた征治は、程なく手を止める。先程から、身の回りを飛び回る蚊のように、頭の中に征治の集中力を削ぐ何かがある。
俺は今、何にイライラしている?
そしてすぐに思い当たる。先程の原田さんの結婚話や山瀬との会話に度々登場した『幸せ』という言葉。
前から感じていたが、『幸せ』という言葉がカンに障る。なぜだ?俺はもう、今の自分を不幸だとは思っていないはずだ。幸せなんてただの幻影だと思っているだけで。
色々思いを巡らせるうちに、突然映像のようなものが浮かび、子供の頃に幼馴染に乗せられて『幸せ探し遊び』をしたことを思い出した。
はっ、笑えるよな。お前が一番に俺を裏切ったのに。大事なものを奪ったのに。
苛立ちの原因はこれだったことにして、征治は頭を振って中の邪念を追い出し、仕事を再開した。
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