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すんなり行くと思っていた顔合わせのセッティングはなかなか上手くいかなった。
弱小出版社なら、こちらが興味を持ったことを知れば食いついてくると思ったのだが、色よい返事がもらえない。出版社の担当者の方と会うことは問題ないが、どうしても作者とコンタクトを取らせたくないようなのだ。
まあ、クリエーターには偏屈ものが多く、表に出たがらない者もいるだろう。あるいは作者が未成年?作風を見る限りそうではない気がするが。それなら、こちらが直接交渉しますと言っても、それは困るの一点張りだ。
ネットで「秦野 青嵐(ハタノ セイラン)」と作家の名前を検索してみても、出版されている本の情報が出てくるだけで、作家個人に関することは何一つ出てこない。もちろんSNSなども無い。
プロに頼めば数日で調査は上がって来るだろうが、こちらは身辺調査をしたい訳ではないのでそれも違う気がして、出版社を粘り強く説得した。作者から全権を委託されていると出版社が言っても、山瀬が会いたいのは作家本人の方なのだ。
努力の甲斐あって、とうとう相手方が折れた。
一度だけなら作者も同席してよいという。ただし、条件があるという。今回の顔合わせで知った作家の個人情報は絶対に他で漏らさないで欲しいというのだ。作者はひっそりと静かに暮らしていくことを望んでいて、あまり外部と接触をしたくないのだそうだ。
山瀬にセッティングに時間が掛かったことを詫びつつ、報告をする。
「へええ、あの文章書く人が仙人のような生活をねぇ。ますます会うのが楽しみになってきた。他に分かってることは?」
「成人、男性。それだけです。仙人というか、引きこもりなんじゃないですかね。20日の午後1時から、月野珈琲店の個室を押さえてあります」
喫茶店ながらいくつか個室が用意されており、軽い打ち合わせなどでよく使う店の名を挙げた。
「サンキュ。じゃあ、当日よろしく」
山瀬は機嫌よく頷いた。
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