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目の前に小冊子の束を持つ手が差し出され、ささくれ立った指先に目がいった。
「はい、終わったよ会長」
「あぁ、ありがとう雫」
荒れた指先を見ながら冊子の隅をホチキス留めされた束を受け取る。
本校受験志望者へ向けた校内の楽しい活動内容などをPRした内容の小冊子だ。
生徒会とは無縁である緒方雫(オガタシズク)が訳あって、生徒会長である本庄楓(ホンジョウカエデ)と冊子作りの手伝いを行っていた。
「それにしても暗くなるの早くなったよな」
既に薄暗くなった校庭を机に座り窓から覗いて雫が言った。外はまだ部活動で賑わっている。
雫がこちらを見ていないのをいいことに、楓は雫の後ろ姿をじっと見詰める。
薄茶色のさらさらした髪、自分より薄い体、見ているだけで無条件で抱き締めたくなってしまう。
「そうだね。こっちも一段落ついたから、これ職員室に届けて一緒に帰ろうか」
楓が受け取った冊子の端をトントンと机に軽く当て揃える。
その音と同時に雫が振り返った。
にこにこと微笑む雫の姿に胸がきゅっと絞られた。
「うん」
「あ、雫今日バイトは?」
「今日は休み。じゃなきゃこんな生徒会の手伝いなんてやらないよ。それにしてもタイミング悪かったな。他の生徒会の人達みんな急用だなんて」
「そうだね。本当、雫がいてくれて助かった。ありがとう」
「いえいえ。お礼は学食のA定でいいよ」
「あ、それ一番高いやつ」
「だめ?」
「いや……いいけど」
「やったぁ」
雫の笑顔が見れるのなら、A定食なんてお安いものだと思ってしまう。
──楓は雫が好きだ。
ライクではなく、ラブの方で。
出会いは高校3年の春。
1年で書記を。2年では副会長を務め、3年に上がる直前、2年の期末には会長に抜擢され、とうとう上り詰めてしまった。
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