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少年は思ったよりも冷静だった。
こんなご時世だ。何が起きたっておかしくない。
そう、周囲が突然全く心当たりのない風景に変わっていたとしても、だ。
居候先の家のリビングでテレビを見ていたはずなのに、いつの間にか自分が長閑な田園風景の中にいたって何らおかしいことはない。
彼の住む世界には『魔法使い』がそこら中に蔓延っており、魔法なんて珍しいものではなかった。
だが彼が驚かなかったのはそんな理由ではない。
彼には自分がこんな目に遭うことに心当たりがあり過ぎた。
魔法が珍しいものではないとは言え、例えばこんな大規模な「幻覚」を見せられるなんて相当の魔法の使い手でなければ不可能だ。
そして彼は多くの『相当の魔法の使い手』から恨みを買っていた。犯人探しをすることが愚かしく思うほどに。
ーーくそが。
少年は端正な顔を歪めて舌打ちをする。
ポケットから携帯端末を取り出して見るが、電源が落ち沈黙している。
「東城さーん……」
見慣れない風景の中で聞き慣れた声が背後からした。
東城、と呼ばれた少年は振り返る。
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