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「ああそうかい。あんたなんか腕っ節に任せたことしかできないからね」
「耳が痛ぇ」
一触即発かと思えば、すぐに和やかな雰囲気に落ち着く。女性は男性に耕すことは任せ、彼女は別の作業に移った。
即ち東城の想像した未来は訪れなかったことを示す。
(え?)
東城は自分の目と耳を疑った。
ーーありえねぇ。男が女に指図して生きていられるなんて!
さらに周囲を見回す。
唾棄すべき「常識」が存在する証明を探し求めた。
受け入れ難いあの「日常」をこれほどまでに渇望することは後にも先にもないだろう。
彼の生まれた世界は女のみが『魔法』を使う資質があり、その『魔法』は人類の希望であり、絶望だ。
女は生まれながらの勝者だ。人類の役に立つ。だから庇護され、助長していった。
その結果が魔法の使えない「生まれながらの敗者」である男を、女が虐げても黙殺される極端な『女尊男卑』だった。
それが彼らの「常識」であり「日常」だ。
だがどこにも彼らの「常識」や「日常」は存在しなかった。
ひたすらに穏やかに『魔法』に頼らない人々の営みがそこにあるだけだった。
暴力に等しい「常識」や「日常」が何の理由もなく突如として姿を消すことを、「常識」や「日常」の暴力に晒されるよりも恐ろしく感じた。
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