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(俺にこんないい夢見させて、そのあとで現実を思い知らせるって魂胆か? くそったれが)
ひとまず彼はこの状況を「幻覚を見せられている」とし、「魔法使いによる襲撃の一つ」と考えることにした。
***
「雪音、この幻覚をブチ破るような魔法を……」
東城は(この状況の中に限って言えば)唯一の理解者であろう雪音の方を向いた。
しかしその様子に全身の血の気が引く。
雪音はその場にしゃがみ込み、その黒マントの裾が地面に着くほど背を丸めている。顔面は蒼白だった。
「どうしたよ」
「ごめんなさい」
謝ったってしょうがねえだろ、と思う。
体調が優れないのは火を見るより明らかだ。
(この調子だと当てにはできそうにねえな)
思わず舌打ちをすると、低い位置にある雪音の肩がびくっと震える。
「別にお前が役に立たねえとかそういった意味じゃねえよ。このくそったれな状況に苛立っただけだ」
庇うつもりはなかったが、明らかな体調不良を気遣うくらいの良心は残ってるんだよ……と思った。
休める場所はないか東城は辺りを見渡した。すると離れた路上でこちらを見ている一人の女性が居るのが目に入った。
その女性はふっくらとした体をゆらゆら動かし首を振って左右を見ている。
やがて彼女はやや駆け足で東城達のいる方向へと寄ってきた。
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