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「あ……あの、もしかして体調が悪いんでしょうか?」
甲高い声で話しかけてきたその女性は東城と雪音の顔を交互に見た。
女だ、反感を買うと碌なことが起きない。元の世界で培われた女への警戒心が東城の「外面モード」にスイッチを入れる。
「少し休める場所があるといいのですが、どこかいいところは存じないでしょうか?」
そして敵かどうかわからない女ならなるべく早く遠ざけたい。一体何が地雷になるかわからない。怒らせてしまえば文字通りの生き地獄を味わうのだ。
場所だけ教えてもらって、案内は断ればいい。そう企んだ。
しかしその若くふくよかな女性は雪音の隣にしゃがみ込んだ。シフォンのワンピースの裾に砂が付くなど厭わない。
彼女は肉厚な手を雪音の頭上にかざした。彼女の掌に淡い光が灯る。
沈黙が続く。
(これは……治癒魔法?)
「どうですか?」
女性が尋ねたが、雪音はか細い声で「大丈夫です」と言うだけだった。魔法が効果なしなのは明らかだった。
その様子を見た女性はがばっと頭を下げた。
「ごめんなさい! 私の魔法、怪我には効くんですが体調不良とかは治せなくて……お役に立てなくてごめんなさい!」
女性は大袈裟なほどに謝った。
その挙動不審ともとれるような慌てふためき方はどこかで見たことがある気がした。
東城が口を開くよりも先に、女性はわたわたしながら立ち上がった。
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