第一部 背信と正義と略奪愛と気まぐれと

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「吐き気とかなければ、冷たくて甘いものを食べたら少し気分が良くなるかもしれません。あちらにいいお店があるんで、行きましょう!」  そう言うなり彼女は座り込んでいる雪音を抱え上げると、軽々とお姫様抱っこをした。  彼女はぽっちゃりしていてそれなりの体格をしているが、身長で言えばごく平均的である。雪音は小柄とはいえ女を女がまるで王子様のように抱え上げるなんてそうそう見られる光景ではない。  そして人ひとりを抱えているとは思えない軽快な足取りで、彼女は歩いていく。 ***  件のふくよかな女性はトレーにアイスクリームの入ったカップを三つ乗せて、ベンチに座る東城と雪音のもとに歩いてきた。  二人は道の脇に設置されたベンチに座って待つように言われていた。確かにすぐそこにアイスクリームを売っている屋台のようなものが建っている。  ヘラでカップに盛られた真っ白なアイスは角が立ち、まるで冬のマッターホルンのような造形をしている。  しかしそれを見ても東城は面白味も何も感じない。  一昔前は霊峰など称えられた山々も、魔法使いの超自然現象的な『魔法』の前にはその存在も霞んだ。見向きもされなくなって久しい。そんなものに似ていても何の感動も呼び起こさない。
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