第一章 幽霊タクシー

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「幽霊とは限らないだろ。  菜切は、乗ってきたときは、生きた人間だと思ったんだろ?  じゃあ、生きた人間だったが、事故に遭って、こりゃ、このタクシーは危ない、と思って逃げ出したんだよ」 「でも、他に家とかない場所なんですよ」 と菜切が異を唱える。 「事故したばかりの人間が逃げ出しますかねえ。  怪我してるかもしれないのに」 と言う菜切に深鈴が言った。 「なにかまずい仕事とかしている人で、警察が来たらヤバイと思って、逃げ出したとか?」  うーん、と菜切は唸っていた。 「普通のおじさんに見えましたけどねえ」  そう言ったあとで、苦笑いし、 「あの、みんなには霊ってことで。  客受けのいいネタなんで」 とバックミラーでこちらを見ながら、言ってきた。  調子よく言ってくる菜切の言葉に、  まさか。  よく聞く幽霊タクシーの話って、全部ネタなんじゃないだろうな……と思ってしまった。
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