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小箱に入ったご飯、スクランブルエッグ、エビフライや炒め物、添え物のプチトマトまではいい。メインらしいお肉は、いつから煮込んだらそうなるのか、箸では掴めないのでは無いかと危ぶむ程に柔らかいスペアリブでパックを開けると教室中に濃厚な旨味を含む肉ダレの香りが広がった。そして別の包みに丁寧に包装されて保冷剤を適度に敷かれていたのはホール形状のチーズケーキで、表面には砂糖を焦がしたザラメまで敷かれている。
優「負けた……女子力で負けた」
未央「はぁ、羨ましいわぁ」
晴香「……」
流石の親友もこれを見て見ぬ振りは出来なかった様で会話に加わる。
晴香「……でも、これ多いよ?」
健二「みんなで食べればいいよ。ケーキは残ると思うけど、形良く焼くのはホールが良いし、部員に配れば残らないから」
私の精一杯の苦言も通じず、ニコニコとした健二は私やみんなが食べる弁当を楽しげに眺めていた。そして、その頃から周囲の健二の印象が大きく変わり始める。
部員「優しい先輩で、面倒見も良くって最高です」
クラスメイト「ズルいよな。勉強も運動も100点だし、でも、勉強教えてくれるし文句の言いようが無いわ」
女子「ファンクラブ入っちゃいました。でもみんな織田さんより料理下手だし野球の応援くらいしかできないんですけど……」
最初こそ突然勉強が出来、性格の豹変した健二に驚いた周囲もケーキに胃袋を掴まれ、神対応としか言えない面倒見の良さにほだされ驚くほど早く新しい健二はみんなに認められていった。
ただ、私だけはそんな健二を納得出来ない。みんなが羨む健二といればそれは良い扱いもある。実際、はじめに危惧した様なバカップルぽさは残るものの、それを学内の全生徒が承認してしまった今では恥ずかしがる方がおかしい雰囲気にさえあるが、あれは本当に健二なのだろうか?
放課後、手を繋いで歩く私には健二の影が見えない。まるで別人になってしまった健二。
今までの健二はどこへ行ってしまったのだろう。
手……そう言えば外で手を繋ぐのは初めてだ。
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