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医師は小さく口元を歪めながら金を懐にしまった。医師とともに病院を出る。医師はドアノブにcloseの札を立てた。
白「さて、これから俺は織田健二に会う。お前にはそれまで助手をしてもらう」
晴香「え?私は客……む!?」
口を防がれて文句を止められた。
白「面識がある者がいた方がやりやすい。それから俺の事は白と呼べ」
晴香「…………」
口を防がれたまま、うなづく。まぁいいと思えた。成功して欲しいのは私の方だ。この非合法の病院が失敗した時にお金を返してくれる保証はない。
白医院の噂は裏路地に潜む噂の中ではかなり有名だ。外科でも内科でもない、催眠科の病院。催眠術の類で性格を"治し"てしまうというそれは医学的にも道徳的にもまだ合法とはされない行為だけど、私の様にそれを求める声は少なからずある。
久しぶりに携帯を見る。
健二【本当にごめん。焦ってた】
健二【先輩がみんなしたことがあるって聞いて、慌てたんだ。ごめん】
健二【絶対何もしないから、会って話せないか?】
未読10数件、そんな内容が続いているのを見て虫唾が走る。
晴香「したのは……あんたじゃん!!」
私は今の彼をもう好きではいられない。だから……"治す"んだ。昔の関係に、昔の彼に……
晴香【今夜、私の家に来て。両親は今日もいないから】
メールを一通送り、携帯を閉じた。お互い様だと思った。騙している罪悪感は欠片もない。
晴香「……………………………………………」
夜になって、インターホンがなる。気まずそうに現れた健二にいつもの様にコーヒーを、自分のココアを用意して机を挟んで座る。いつもと違うのはこの沈黙、肩を並べず座った距離、そして、コーヒーの中に潜む不純物。
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